2008年6月10日火曜日

第2回 06/17 (火) 生農棟F607 16:00~

交尾中のアジアイトトンボにおける雌の精子貯蔵器官内の精子数の動態
保全生物学研究室 D1 田島裕介

アジアイトトンボの交尾行動は、雄の腹部の動きの違いから、3つのステージに分けられる。処女雌を交尾させたところ、ステージⅠでは、精子が注入されず、ステージⅡで精子注入が開始されていた。また、交尾時に受け取った精子は、約6割が交尾嚢、4割が受精嚢に貯蔵されることがわかった。本種の雌の精子貯蔵器官は交尾嚢と受精嚢からなり、両者は受精嚢管によって接続している。一方、雄の副生殖器の先端には一対の角状の付属器があり、雌の精子貯蔵器官内の精子を掻き出す機能をもつといわれている。野外において、既交尾雌を用いた交尾中断実験を行なうと、ステージⅠの間に交尾嚢で精子数の減少がみられた。本種の雌の交尾嚢と受精嚢をつなぐ管は細くて長いため、付属器は受精嚢まで届かず、雄は交尾嚢内の精子しか掻き出せないと予測される。しかし、受精嚢でも精子数の減少が見られたので、精子の掻き出し以外の何らかの精子置換機構が存在するかもしれない。


モンゴルステップにおける土壌CO2、CH4フラックス
陸域生態研究室D3 浦野忠朗

近年、人間活動と自然生態系由来による大気のCO2とCH4濃度が増加してきている。これらの物質は高い温室効果を持ち、問題となっている気候変動の主な要因と考えられている。これらの物質を固定し、大気中の濃度を低下させるのは植物による光合成と土壌微生物による窒素固定である。
特に、土壌には大量の炭素が蓄積されており、その動態は気候変動の諸来予測を考える上で重要である。土壌の生物活動は、生態系及び土壌環境の状態により、CO2とCH4を発生させる場合も吸収する場合もある。そのために、多様な生態系でそれぞれのフラックス(地表面での土壌と大気間の物質の移動)を測定し、その環境依存性を解析して量を推定する必要がある。
本研究対象地のモンゴルは、国土面積の約75%である1150000km2が、土壌CO2・CH4フラックスのデータが少ないステップであり、フラックスの調査が必要とされている。本研究では、土壌CO2・CH4フラックスの日変動及び季節変動を現地で測定し、環境依存性を評価しモデルを作成することにより、典型ステップにおける土壌CO2・CH4フラックスの季節変動パターンと年間の量を評価することを目的として研究を行った。また、モンゴルのステップで一般的に行われている放牧を停止した場合でのフラックスも同様に測定した。その結果、全ての測定でCO2フラックスは放出であり、CH4フラックスは吸収であった。CO2フラックスは地温と土壌水分に対して有意に増加し、CH4フラックスの吸収量は地温に対して有意に増加、土壌水分に対して有意に低下した。また、モデルを用いて推定した結果、一年間の土壌フラックス量はCO2で約1t CO2 -C ha-1 yr-1、CH4で約-1.4CH4 -C ha-1 yr-1となり、冬季にはどちらのフラックスも0に近い値となった。さらに、放牧区と、放牧を止めた禁牧区で比較を行った結果、有意差はなかったものの禁牧区でCO2フラックス量が多い傾向があった。

2008年6月9日月曜日

第1回 05/20 (火) 生農棟F607 16:00~

霞ヶ浦における在来タナゴ類への生息環境と外来種タイリクバラタナゴの影響
地域資源保全学研究室 D1 諸澤崇裕

タナゴ類はコイ科タナゴ亜科に属する淡水魚である。イシガイ科の二枚貝に産卵するという特殊な繁殖生態を持つため、産卵母貝の選択性や繁殖行動などの研究が多く行われてきた。一方で、14在来種・亜種中13種・亜種が環境省のレッドリストに掲載されており、保全の必要性が極めて高い分類群である。本研究の調査地である霞ヶ浦ではアカヒレタビラ、タナゴ、ヤリタナゴ、ゼニタナゴの在来4種とカネヒラ、タイリクバラタナゴ、オオタナゴの外来3種のタナゴ類が生息している。現在はタイリクバラタナゴが圧倒的に優占している一方で、在来種ではゼニタナゴが絶滅状態であり、残りの3種も生息数が少ないと言われている。本研究では、タナゴ類の分布や個体数に影響を与えている要因の解明を目的として、野外での魚類採捕と環境要因の測定を行った。
2005年に126地点において8~10月に2回、ビンドウを用いた魚類採捕と流速、水辺の形状、電気伝導度などの環境要因の測定をした。GLMMを用いて解析した結果、在来種3種とタイリクバラタナゴの間には正の相関が認められたため、分布においては在来種とタイリクバラタナゴの間に競争排他的な関係は認められなかった。環境との関係においては、在来種は富栄養化の指標である電気伝導度と負の相関を示し、さらに、3面コンクリート水路を避ける傾向があった。一方で、タイリクバラタナゴは電気伝導度と正の相関を示し、3面コンクリート水路も好む傾向が認められた。富栄養化やコンクリート水路化といった生息環境の悪化の影響は在来種と外来種で対照的な傾向を示し、在来種は生息環境の悪化により負の影響を受けるが、タイリクバラタナゴは生息環境の悪化に対する耐性を持つことが示唆された。以上のことから、現在タイリクバラタナゴが優占している要因の一つは、タイリクバラタナゴが生息環境悪化に対する耐性を持つことであると考えられた。



他個体の存在を情報として利用するマルハナバチの採餌行動
川口利奈 生命共存科学専攻

多くの動物にとって、餌の質や獲得しやすさは大きく変動し、その予測は困難である。したがって、利用可能な餌を効率的に発見する能力は、しばしば個体の適応度を大きく左右する。私はこれまで、長続きしない花資源を利用するマルハナバチを材料に、他の採餌個体の存在を情報として利用する行動が、彼らの餌探しに役立っているかという課題に取り組んできた。鳥類や哺乳類を中心とした脊椎動物については、他個体の「真似」をすることによって、餌の発見効率が向上する事例が古くから知られてきた。これに対し昆虫については、ミツバチの8の字ダンスのような積極的な情報伝達がなければ、他個体の存在や行動を情報として利用することはできないだろうと考えられてきた。ところが最近の研究によって、昆虫も他個体が意図せずに発する情報を自らの意思決定に利用する能力を持つことが明らかになってきている。簡易な操作で大きな標本サイズを得ることのできる昆虫を用いることで、動物の採餌における情報利用戦略の実証研究が大幅に進展すると期待される。そこで私はまず、採餌経験を持たないマルハナバチが餌場の同種個体に追従することで餌の発見効率を上げられることを、室内実験によって定量的に示した。次に私は、他個体に追従することで得られる利益が、餌についての知識の有無や、他個体が自分と同種であるか否かなどの状況のちがいによって変化する可能性に着目した。そして、野外で採餌しているマルハナバチが、自分の知っている花を訪れるときには同種を避け、知らない花を訪れるときには同種に追従することや、知らない花を訪れるときでも他種のマルハナバチを避けることなど、実際に餌場の他個体に対する反応を柔軟に切り替えられるということを明らかにした。本セミナーでは、私の研究紹介をとおし、動物が餌探索において他個体から得られる情報をいかに有効利用しているのかについて、その一端を示したい。