2009年1月16日金曜日

第5回 1月23日(金) 15:00~ 総合研究棟 A111

絶滅危惧種ヒヌマイトトンボの保全生態学
寺本悠子(保全生態学研究室D1)

絶滅危惧種Ⅰ類のヒヌマイトトンボは、汽水域に成立するヨシ群落を生息地とし、同一のヨシ群落内で一生を完結する特異な生活史をもっている。本種の地域個体群のひとつが三重県伊勢市の下水処理施設建設予定地内で発見されたため、生息地に隣接した放棄水田にヨシの根茎を密植して、汽水を流し、新たな生息地を創出する代償ミチゲーションを行なった。本研究では、新たな生息地における本種の個体群過程を示す。

2008年10月19日日曜日

第4回 10/24 (金) 16:00~ 総合研究棟 A205会議室

「マルハナバチの空間採餌パターン:個体ごとに、どんな株を訪れるのか?」
共存生物学研究室 学振PD 牧野 崇司

植物の送受粉の成否は送粉者の行動にかかっている。これまで多くの研究が、植物株に対する送粉者の訪問頻度などを調べてきたが、送粉者の「個体」に着目することはあまりなかった。しかし、マルハナバチなどの送粉者はしばしば個体ごとに独自の採餌域を持つことから、花粉を運ぶ先が異なるなど、送受粉への影響が個体間で異なる可能性が示唆されている。したがって、花粉の移動に関する理解を進めるには、送粉者が個体ごとに植物集団中のどんな株を選ぶのか、そのルールの解明が不可欠である。本発表では、500個体以上のハチを識別して行った野外観察や、個体間相互作用に着目して行った大規模網室での 実験、花序の誘引機能を見た目と報酬量に分けて調べた人工花実験について紹 介し、「個体ごとにどんな株を選ぶのか?」に迫っていく。



精子競争のリスクに対応した雄の戦略的な射精物質生産
保全生物学研究室 M1佐々木那由太

チョウ類の雄は交尾時に精子とともに精包と呼ばれる物質を雌に注入する。一般に、雄は1回の交尾で注入する精子の数が多いほど精子競争において有利であると言われており、雄の注入する精包が大きいほど雌の再交尾を遅延することが明らかにされている。したがって、精子競争が起こる可能性の高い種の雄ほど毎回の交尾で大きな精包と多数の精子を雌へ注入していると考えられた。そこで、雌複婚制のナミアゲハと単婚制のキアゲハを用い、室内飼育し羽化させたそれぞれの種の雄に羽化翌日に1回目の交尾させ、その1~5日後に2回目の交尾させ、直後に雌雄を解剖し精子数と精包重量を比較した。初回交尾において、精包の生産速度に種間で差は見られず、有核精子束の生産速度ではキアゲハの方がナミアゲハよりも高かった。2回目の交尾でも同様にキアゲハの有核精子束の生産速度が高かったが、しかし、注入する精包はナミアゲハの方がキアゲハより大きかった。したがって、雌が複婚制の種の雄は精子の生産よりも精包の生産を優先して行なっている可能性が示唆された。

2008年9月6日土曜日

第3回 9/19 (金) 16:00~  総合研究棟 A205会議室

寄生蜂-寄主の3種実験系において共通の捕食者がもたらす共存持続性
石井弓美子さん(生命共存科学専攻・共存生物学研究室)

生物群集において、その構成種は、捕食・被食や資源をめぐる競争という生物間相互作用を及ぼしあいながら複雑な食物網を形成している。最近では、群集構成種の形質を介した動態への影響が注目されており、個体の学習による可塑的な行動の変化や進化による形質の変化などが個体群動態、ひいては群集の構造にまで影響を及ぼすことが数理モデルにより理論的に予測されている。しかし、これらの理論に対する実際の生物を用いた検証はほとんどなされていない。よって本研究では、2種のマメゾウムシ(アズキゾウムシ、ヨツモンマメゾウムシ)とその共通の捕食者である寄生蜂1種(ゾウムシコガネコバチ)からなる寄生蜂-寄主3種実験系を用い、寄生蜂による捕食が、個体レベルの生物間相互作用を介して3種系の共存持続性に与える影響を調べた。
累代実験の結果、寄生蜂のいないマメゾウムシのみの系では競争排除により1種が消滅するのに対し、寄生蜂を導入すると3者が長期間共存した。さらに、寄生蜂が存在するときには2種マメゾウムシの個体数が交互に増加するような「優占種交替の振動」が見られた。また、寄生蜂の2種マメゾウムシ幼虫への産卵行動を調べると、寄生蜂は産卵経験により寄主幼虫を学習し、その後の産卵では産卵を経験した寄主幼虫に対し産卵選好性を持つことが示された。このような学習行動は、個体数の多い寄主に対して選好性を持つスイッチング捕食を引き起こす可能性がある。そこで、累代実験系から寄生蜂を取り出してその選好性を調べると、寄生蜂の選好性は寄主幼虫の頻度と相関があった。これらの結果から、寄生蜂による正の頻度依存的な捕食が、本実験系において3種の共存を促進したと考えられる。学習による行動の変化は多くの動物で報告されており、学習という進化などに比べ非常に短いタイムスケールで起こる行動的可塑性は、多様な群集の共存維持に大きな役割をもつ可能性がある。

2008年6月10日火曜日

第2回 06/17 (火) 生農棟F607 16:00~

交尾中のアジアイトトンボにおける雌の精子貯蔵器官内の精子数の動態
保全生物学研究室 D1 田島裕介

アジアイトトンボの交尾行動は、雄の腹部の動きの違いから、3つのステージに分けられる。処女雌を交尾させたところ、ステージⅠでは、精子が注入されず、ステージⅡで精子注入が開始されていた。また、交尾時に受け取った精子は、約6割が交尾嚢、4割が受精嚢に貯蔵されることがわかった。本種の雌の精子貯蔵器官は交尾嚢と受精嚢からなり、両者は受精嚢管によって接続している。一方、雄の副生殖器の先端には一対の角状の付属器があり、雌の精子貯蔵器官内の精子を掻き出す機能をもつといわれている。野外において、既交尾雌を用いた交尾中断実験を行なうと、ステージⅠの間に交尾嚢で精子数の減少がみられた。本種の雌の交尾嚢と受精嚢をつなぐ管は細くて長いため、付属器は受精嚢まで届かず、雄は交尾嚢内の精子しか掻き出せないと予測される。しかし、受精嚢でも精子数の減少が見られたので、精子の掻き出し以外の何らかの精子置換機構が存在するかもしれない。


モンゴルステップにおける土壌CO2、CH4フラックス
陸域生態研究室D3 浦野忠朗

近年、人間活動と自然生態系由来による大気のCO2とCH4濃度が増加してきている。これらの物質は高い温室効果を持ち、問題となっている気候変動の主な要因と考えられている。これらの物質を固定し、大気中の濃度を低下させるのは植物による光合成と土壌微生物による窒素固定である。
特に、土壌には大量の炭素が蓄積されており、その動態は気候変動の諸来予測を考える上で重要である。土壌の生物活動は、生態系及び土壌環境の状態により、CO2とCH4を発生させる場合も吸収する場合もある。そのために、多様な生態系でそれぞれのフラックス(地表面での土壌と大気間の物質の移動)を測定し、その環境依存性を解析して量を推定する必要がある。
本研究対象地のモンゴルは、国土面積の約75%である1150000km2が、土壌CO2・CH4フラックスのデータが少ないステップであり、フラックスの調査が必要とされている。本研究では、土壌CO2・CH4フラックスの日変動及び季節変動を現地で測定し、環境依存性を評価しモデルを作成することにより、典型ステップにおける土壌CO2・CH4フラックスの季節変動パターンと年間の量を評価することを目的として研究を行った。また、モンゴルのステップで一般的に行われている放牧を停止した場合でのフラックスも同様に測定した。その結果、全ての測定でCO2フラックスは放出であり、CH4フラックスは吸収であった。CO2フラックスは地温と土壌水分に対して有意に増加し、CH4フラックスの吸収量は地温に対して有意に増加、土壌水分に対して有意に低下した。また、モデルを用いて推定した結果、一年間の土壌フラックス量はCO2で約1t CO2 -C ha-1 yr-1、CH4で約-1.4CH4 -C ha-1 yr-1となり、冬季にはどちらのフラックスも0に近い値となった。さらに、放牧区と、放牧を止めた禁牧区で比較を行った結果、有意差はなかったものの禁牧区でCO2フラックス量が多い傾向があった。

2008年6月9日月曜日

第1回 05/20 (火) 生農棟F607 16:00~

霞ヶ浦における在来タナゴ類への生息環境と外来種タイリクバラタナゴの影響
地域資源保全学研究室 D1 諸澤崇裕

タナゴ類はコイ科タナゴ亜科に属する淡水魚である。イシガイ科の二枚貝に産卵するという特殊な繁殖生態を持つため、産卵母貝の選択性や繁殖行動などの研究が多く行われてきた。一方で、14在来種・亜種中13種・亜種が環境省のレッドリストに掲載されており、保全の必要性が極めて高い分類群である。本研究の調査地である霞ヶ浦ではアカヒレタビラ、タナゴ、ヤリタナゴ、ゼニタナゴの在来4種とカネヒラ、タイリクバラタナゴ、オオタナゴの外来3種のタナゴ類が生息している。現在はタイリクバラタナゴが圧倒的に優占している一方で、在来種ではゼニタナゴが絶滅状態であり、残りの3種も生息数が少ないと言われている。本研究では、タナゴ類の分布や個体数に影響を与えている要因の解明を目的として、野外での魚類採捕と環境要因の測定を行った。
2005年に126地点において8~10月に2回、ビンドウを用いた魚類採捕と流速、水辺の形状、電気伝導度などの環境要因の測定をした。GLMMを用いて解析した結果、在来種3種とタイリクバラタナゴの間には正の相関が認められたため、分布においては在来種とタイリクバラタナゴの間に競争排他的な関係は認められなかった。環境との関係においては、在来種は富栄養化の指標である電気伝導度と負の相関を示し、さらに、3面コンクリート水路を避ける傾向があった。一方で、タイリクバラタナゴは電気伝導度と正の相関を示し、3面コンクリート水路も好む傾向が認められた。富栄養化やコンクリート水路化といった生息環境の悪化の影響は在来種と外来種で対照的な傾向を示し、在来種は生息環境の悪化により負の影響を受けるが、タイリクバラタナゴは生息環境の悪化に対する耐性を持つことが示唆された。以上のことから、現在タイリクバラタナゴが優占している要因の一つは、タイリクバラタナゴが生息環境悪化に対する耐性を持つことであると考えられた。



他個体の存在を情報として利用するマルハナバチの採餌行動
川口利奈 生命共存科学専攻

多くの動物にとって、餌の質や獲得しやすさは大きく変動し、その予測は困難である。したがって、利用可能な餌を効率的に発見する能力は、しばしば個体の適応度を大きく左右する。私はこれまで、長続きしない花資源を利用するマルハナバチを材料に、他の採餌個体の存在を情報として利用する行動が、彼らの餌探しに役立っているかという課題に取り組んできた。鳥類や哺乳類を中心とした脊椎動物については、他個体の「真似」をすることによって、餌の発見効率が向上する事例が古くから知られてきた。これに対し昆虫については、ミツバチの8の字ダンスのような積極的な情報伝達がなければ、他個体の存在や行動を情報として利用することはできないだろうと考えられてきた。ところが最近の研究によって、昆虫も他個体が意図せずに発する情報を自らの意思決定に利用する能力を持つことが明らかになってきている。簡易な操作で大きな標本サイズを得ることのできる昆虫を用いることで、動物の採餌における情報利用戦略の実証研究が大幅に進展すると期待される。そこで私はまず、採餌経験を持たないマルハナバチが餌場の同種個体に追従することで餌の発見効率を上げられることを、室内実験によって定量的に示した。次に私は、他個体に追従することで得られる利益が、餌についての知識の有無や、他個体が自分と同種であるか否かなどの状況のちがいによって変化する可能性に着目した。そして、野外で採餌しているマルハナバチが、自分の知っている花を訪れるときには同種を避け、知らない花を訪れるときには同種に追従することや、知らない花を訪れるときでも他種のマルハナバチを避けることなど、実際に餌場の他個体に対する反応を柔軟に切り替えられるということを明らかにした。本セミナーでは、私の研究紹介をとおし、動物が餌探索において他個体から得られる情報をいかに有効利用しているのかについて、その一端を示したい。